『蛋白質核酸酵素』が1月号で休刊

共立出版という会社から発行されている、生化学・分子生物学の日本語総説誌『蛋白質核酸酵素』(PNE)という雑誌があります。僕らの業界関係者以外にはまったくといっていいほどなじみがなく、冗談としか思えないような雑誌名ですが、1953年に創刊されて、53年目を迎える伝統があります。これが、2010年1月号をもって休刊することになったそうです。
いずこも同じ秋の空、広告料収入の減少が招いた悲劇だそうですが、一般紙に限らず、紙媒体の雑誌というものの利益モデルがもはや成立しなくなったこともあるでしょう。たとえば芥川賞をとった作品が全文掲載されたとしても、その文芸誌はいつもの号よりも微増、という程度しか売れず、作品単体の単行本、しかも文芸誌よりも高い値段がついていてもきちんと売れるそうです。単純に考えたら文芸誌のほうが他の作品も読めてお買い得な気もするんですが、世の中そんなもんではないらしい。
たしかにわれわれも、和文総説を読むかといえば、そんなに読まないんですよね。英語の原著論文をあたるとか、natureとかcellのfamily雑誌にラインナップされるレビュー誌を読んだほうが充実していることが多いし、なによりその文章はpdfで手っ取り早く入手できてしまう。(とはいえこれはお金に恵まれた大学だからこそできることで、地方私立大なんかにいくとその手のサービスに入れるお金がない。こういうところでも研究機関の二極化は透けて見えるのですが)
『科学のアウトリーチ活動』ということから考えれば英文より和文がいいのは当然なのですが、かつて存在したサイアスなどの科学雑誌が根絶やしになって久しい上、PNEなどは内容が高度すぎて、一般市民どころか科学愛好家といわれる人たちでも、呼んでいるうちに頭がスポンジ化すること請け合いです。そう考えると、ノスタルジー以外にこの手の本を残す必然はないように思えてしまうのもまた寂しいところ。PNEのような和文総説誌は易化させることもできず、高度化するにも英文原著・インパクトファクター最優先にさせられてしまった現状の分生・生化界にも救ってもらえず、過去帳入りということになってしまいました・

まあ、まだバイオ系の雑誌はあと2冊残っています(『実験医学』と『細胞工学』)。逆に言えば業界で似たようなコンセプトの本が鼎立できたことが驚異といえるかもしれないし、この2冊がどういう方向を向いていくのかも注目していきたいです。