ラスカー賞とノーベル賞

今年、アルバート・ラスカー医学研究賞京都大学山中伸弥先生が受賞されました(ケンブリッジジョン・ガードン博士と共同受賞)。論文での報告から異例の速さということもあり、テレビなどのマスコミは「こいつはこのままノーベル賞?」とばかりに盛り上がっていたようです。僕のところにも、昨年『iPS細胞 世紀の発見が医療を変える』を上梓したこともあって、山中先生が受賞された場合には朝のテレビ番組へコメント出演をしてほしい、という仮押さえの連絡が来ていました。残念ながら、今年は流れてしまいましたが。

確かにノーベル医学・生理学賞を見ると、その受賞者の2割がラスカー賞をもらっているので、その期待が高まるのは理解できます。しかし、まだ発展途上の研究でもあることや、イヨーロッパではES細胞研究のほうが盛んで、まだiPS細胞研究が盛り上がっていないということもあり、一気呵成に、というのは難しかったでしょう。ちなみに、今回共同受賞のガードン博士はオタマジャクシの腸管から得た細胞核を卵に移植し、世界ではじめて体細胞クローン動物を作ったということで、すでに固体として生まれてしまって個体となった細胞、しかも腸管という特定の組織になってしまった細胞から得た核でも、受精卵のような状態まで戻すことができる、ということを示しました。これを「初期化」といいます。この仕事は1962年のものでした (Gurdon, JB (1962) The developmental capacity of nuclei taken from intestinal epithelium cells of feeding tadpoles. J Embryol Exp Morphol 10: 622–4)。iPS細胞はゴードン博士が示した人為的な体細胞初期化の可能性を、山中先生が具現化したものということであり、今回のラスカー賞はなかなか粋な選考だったといえます。

ちなみにラスカー賞を取った日本人ですが
1982年 花房秀三郎(基礎医学研究賞)
1987年 利根川進基礎医学研究賞)
1989年 西塚泰美基礎医学研究賞)
1998年 増井禎夫(基礎医学研究賞)
2008年 遠藤章(臨床医学研究賞)
2009年 山中伸弥基礎医学研究賞)
となっています。花房先生、西塚先生はすでに鬼籍に入られ、利根川先生はノーベル賞を受賞されています。次にノーベル賞をもらうのは、誰になるのでしょうか。